『愛の輪郭』
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『愛の輪郭』

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不明瞭で抽象的な、愛という存在がなんなのかを知っておきたい。 相澤義和(『愛情観察』)による、愛と生活を巡る珠玉の作品集。 【あとがき】 私は若い頃、当時の恋人に「あなたは私を見ていない、愛していない」というような意味のことを言われたことがある。それも一度や二度ではない。その言葉が今でも耳に残っていて、日頃から私的な写真行為において、相手を見る、相手を愛する、とはどういったことなのだろうかと考えていた。 不明瞭で抽象的な、愛という存在がなんなのかを知っておきたい。私は恋人と過ごすときは固定観念を相手に当てることなく常に相手を尊重すること、最低限そうやって恋人と接するよう心がけた。その上で恋人と過ごす時間、目の前の事実を満遍なく写真に写すことにした。写す際に自意識から余計な概念を削ぎ落とし、感情の波とシャッターを連動させることが可能ならば、そこに写る「なにか」は感情の純度が高いものになり、それらの記録を蓄積させた先に「愛のようなもの」が浮かび上がるのではないかと考えた。 この本に写っている今の恋人とは、この文章を書いている時点で約3年弱の付き合いになる。初めて会った時から、一緒に過ごしているときはほとんど絶え間なく写真を撮っている。歳は離れているが、わりとその辺にいるような恋人同士とさほど変わらずに、よく笑って過ごしてきたと思う。あまり食にこだわりがないところがよく似ていた。無駄遣いをせず、派手に着飾らないところや、くだらない噂話や人を悪く言わないところは私の心を穏やかにしてくれた。 何度もセックスをした。徐々に互いの陣地を測りながら生活を考え始め、人間としての温かさ、動物としての冷たい部分を知り始める。受け入れたり拒否したり日々移ろいゆく環境のなかで、ときに向き合いたくない事実なども含め、私は目に入る限りの恋人の姿を撮ってきた。 あまりおしゃべりなほうではなく、思ったことを明確に言葉で私に伝えることが少ない恋人は、機嫌が良いと電マやTENGAをマイク替わりに大好きな乃木坂や眉村ちあきの曲をしっかりとフリつきで歌ったりする。すごく上手いというわけではないけれど、夢中になって歌い踊る姿はとても楽しげで、私はその光景にカメラを向けながらこんな時間が続けばそれは幸せってことなんだろうと思ったりした。 ある日、母親が撮ったという恋人がまだ幼い頃の写真を見せてもらった。 家族の豊かな愛を受けて、怖いもの無しにリビングのテーブルの上に登り、誇らしげな笑顔で母親のカメラを見る幼い頃の恋人。 それは初めて私と旅行に行った時、ひとりじゃ登れない防波堤に登ってはしゃぐ恋人を撮った時と同じ笑顔だった。 まるで子供のような表情でこちらを見ている恋人の姿を写すことができたとき、それまで不明瞭だった「愛のようなもの」の輪郭が少しだけ表れた気がした。 相澤義和